freee 株式会社は、2012年創業の FinTech(フィンテック)企業だ。インターネットを介して銀行口座と連携し、口座の取引明細から自動で会計帳簿を作成する「会計freee」を開発・運営している。
クラウド会計ソフトのイメージが強い freee だが、彼らの事業領域は会計だけにとどまらない。
「人事労務freee」は、給与明細作成や年末調整、入社手続きから勤怠管理まで対応し、給与計算や労務管理を大幅に効率化してくれる。「申告freee」を使えば、法人税・消費税・法定調書・税務申告書作成業務を効率化し、会計から申告までを一気通貫で行うことができる。このように、freee のプロダクトは拡がってきた。
そして2017年9月、顧客管理システムとして世界最大手である セールスフォース ・ドットコムが提供するSalesforce Sales Cloud との連携を実現する「freee for SFA」が発表され、大きな話題を呼んだ。いかにして、この二社の連携が実現したのか。開発を成功させ、ビジネスとしてスケールさせることができたのはなぜなのか。
プロジェクトを牽引してきたfreee株式会社の大西氏・中山氏、株式会社セールスフォース・ドットコムの林氏、そして「顧問Salesforceプログラマ」として開発を支援する当社(株式会社co-meeting )遠藤の、4名の当事者に語ってもらった。(ライター・藤森融和)
目次
僕たちのプロダクトは、単純な会計システムじゃない
「freee にはもともと ERP の思想があった」― そう語るのは freee for SFA のプロジェクトにおいて営業の責任者を務める大西氏だ。
ERP(Enterprise Resources Planning)とは、企業における経営資源=ヒト・モノ・カネ・情報を、適切に分配し有効活用するという考え方のことだ。freee は 2012 年 7 月の創業当初から、単なる会計システムではなくこの ERP の思想にもとづいて開発を拡げていったのだという。 その中で、freeeとセールスフォース・ドットコムの二社がパートナーシップを結ぶに至るには、いったいどのようなストーリーがあったのだろうか。 ターゲットが拡がっていくなかで、ユーザーさまの声としてあったのが、SFA/CRM と連携して欲しい、という要望です。けっこう前から相当な数のご要望をいただいていまして、これが二つ目のきっかけということになります。 そして三つ目は、そもそも自分たちが Salesforce のユーザーだったということ。freee では Salesforce への営業情報の入力を徹底して行っているんですが、一方で見積書・請求書は 会計freee へ入力していた。つまり、営業数字に関して二重入力が発生していたわけなんです。企業として業務効率化を謳っている以上、こういうところはカイゼンしなければならない、と。なので Salesforce と freee の連携開発については、社内では比較的スムーズに話が進んでいった感じです」 では、freee for SFA とは具体的にはどのようなアプリケーションなのか。開発の責任者である中山氏は「コミュニケーションを効率化するためのアプリケーションだ」と語る。 もう少し具体的に言うと、Sales Cloud からは見積書や請求書の情報を会計 freee 側に送ることができる。会計freee からは、銀行口座のオンラインアカウントと同期して処理した入金情報を Sales Cloud へ送ることができる。営業部門と経理部門でそれぞれシステムへ入力する二重入力がなくなって、両部門間でのコミュニケーションが効率化できるというアプリケーションです」 プロダクトマネージャーとして freee for SFA の開発を指揮する中山氏だが、意外にも、開発プロジェクトにアサインされるまでは「Salesforce を触ったことがなかった」という。 freee for SFA の開発プロジェクトに人員を補充しましょうってなったときに、あれは請求書 API を叩いているから中山にうってつけじゃない?みたいな話があって。それで途中からプロジェクトにジョインした形ですね。 実は、当初は Salesforce のことがよく分からなかったんですよ。たまたま freee の中でずっと Salesforce を触らないポジションにいたので。だから、よう分からんシステムで困ったな、と(笑) でも、とにかく自分で触らないと話にならないから、触りまくっていたわけです。そしたら Salesforce って本当に何でもできるってことに気づいて。いつの間にか“これは面白いぞ、Salesforce は神プロダクトだぞ”という感覚に変わっていました。 freee のカスタマーサポートチームでも、freee for SFA のサポートは Salesforce を触らないといけないから敬遠されがちだと思います。取っ付きやすいわけじゃないですからね。でも、ちょっと触りだせば“何これめちゃおもろい!”と思う人は、結構いるんじゃないかなと思ってます」 「今回の開発には大きな成功要因があった」― そう語るのは、Salesforce 側の担当者としてプロジェクトに携わってきた林 氏だ。 本来は、リリース後のユーザのフィードバックからだけでも、色々と機能改善すべきことが出てくるはずなんです。実際に使ってもらっているユーザーの反応を吟味しつつ、カイゼンし続けていくのが理想だと思います」 しかしながら、ミニマムリリースするからこその「産みの苦しみ」もあったようだ。 だからこそ、遠藤さんに“顧問Salesforceプログラマ”を頼んだのが良かったんだと思っています。例えばソニックガーデンさんも同じカタチですよね、“納品のない受託開発”。本来の製品開発って、“ここまでが納期で、そこで終わり”というのはないじゃないですか。リリースサイクルが次々とあって、期間が決まっていて、そのなかで機能を取捨選択してどんどん進めていく。そういうスタイルには、顧問的な関わり方が合っているのかなと思います。 商談に同行していても、毎回感じるんですよね。事前に要件定義して納品したら終わりという形式だと、絶対に苦しいなって。だって実際に使ったら絶対に変わるから。ユーザーに使ってもらってどうなるのかなんて、そうそう予測できるもんじゃないです」 しかし、新しいプロダクトをグロースさせるということは、口で言うほど生やさしい世界ではない。大西氏は、freee for SFA の営業責任者に自ら名乗りを上げたという。そこにはいったい、どのような想いがあったのだろうか。 freee を提案してきた数としては、多分 2,000 社以上になります。商談のなかでお客さまから上がってくる課題は、やはり請求であったり売掛の管理とか消込のところなんですよね。税理士さんに聴いても“会計処理で一番大変なのはなんですかね”っていうと“それは入金消込だよね”って。freee for SFAによって、そこの課題へダイレクトかつシンプルにアプローチできるようなるのは面白なって思ったんですよね。 でも freeeはまだまだ若い会社なので、新しいプロダクトをばんばん売っていける営業リソースがあるかと言うとそうではない。当然、ベンチャーとして高い営業目標を掲げてやってるわけで、そんな状況だと営業チームにとってはメインプロダクトの会計フリーを売るので精いっぱいなのが正直なところです。 freee for SFA も、プロダクトをリリースしただけで売れるような仕組みがあるわけでは決してありませんでした。私が営業のオーナーシップを持ち、中山が開発のオーナーシップを持って、愚直に一つ一つ事例を作ってきて。それが今につながって、Salesforce さんとのパートナーシップがここまでスケールできたことはとても感慨深いです。 開発の部分でいうと、実は私も企画に携わっていて。どうすればユーザーさんにもっと活用してもらえるだろう、もっと業務を改善してもらえるだろうっていうところ、つまり“カスタマーサクセス”を起点に、中山と一緒に開発のプランニングをしていくのは、非常に面白いです」 では、実際に営業を開始したときの、マーケットの反応はどうだったのだろうか。 Salesforce はSFA/CRM の領域を中心に広範なソリューションを提供していますが、お客様の業務範囲を全てカバーできないケースも出てきます。そういった際に freee さんのようなAppExchangeパートナー様と連携させていただき、会計とつなげることによって、より広く深い価値をお客様に提供することができる。カスタマーサクセスにより貢献できるというのは、当社にとってもモチベーションになります。」 freee は会計を起点にしたシステムですが、最大の目的は Salesforce さんと同じ“カスタマーサクセス”なんですよ。ユーザー企業さんにシームレスな業務フローを作っていただき、経営を見える化して、会社として伸びていただきたい。 そもそも、顧客管理・商談管理がしっかりできていないと、請求書がスムーズに作れないんです。営業から経理にデータが正確に上がってこなければ、請求書は作れないので。 私たちが提案しているのは、全社的な効率化、“ポストERP”なんです。変化の激しい現代において、大規模なソフトウェア開発でフロントからバックオフィスまですべての業務を効率化するのは難しい。だから、フロント=攻めの部分は Salesforce で、バックオフィス=守りの部分は freee を入れて API でつなげる。これが、これからの“ポストERP”の時代なんです」 印象的だったシーンがある。インタビュー会場に集合してスタンバイしていたとき、中山氏が“顧問Salesforceプログラマ”として今回のプロジェクトに参画している遠藤と、まるで雑談でもするかのように開発の話をしていたのだ。 普通のチームだと“こんな背景があって、大事な部分はこれで、だから俺たちはこれを作るんだ”というところまでしっかり伝えないと、一番肝心なところが実はメンバーに見えていなかった…なんてことが起きたりするんですよ。 でも、freee for SFA の開発ではそういうことがない。だからすべてが圧倒的に速いです。会計freee の他の機能開発と比べても速い。お客さまにも価値を早く届けられるようになっていると感じますね」 だから、ある程度アバウトな内容の開発ストーリーだとしても、各チームメンバーが自分で考えて、自律的に進められるようになる。それが、顧問Salesforceプログラマの特徴なのかも知れませんね」 僕は freee for SFA のプロダクトマネージャーだけど、僕だけが仕様を考えるんじゃない。遠藤さんも開発チームの他のメンバーもみんなが仕様を考えていく。みんなで顧客にどう価値を提供するか、どうすればカスタマーサクセスにつながるのかを考えている感じなんですよね」 今はまだ、freee の限られた API しか叩いていない。でも新たに、振替伝票 API とか試算表 API とかが開いたんですよね。 “Salesforce は神プロダクトだ”って言いましたけど、やりたいことをカタチにしてくれる素晴らしいシステムだと思いますよ、本当に。だから、新しく空いた freee の API を使い倒して、やりたいことをどんどん実現していきたいですね。 あと、僕は開発者として、事前に要件定義して納品したら終わり…ではなく、とにかくミニマムに試して、徐々に改善していくというのが絶対に良いよというのを、改めて声を大にして言いたいです。そのためにはやっぱり、顧問型かなと思っています」 現時点では、freee for SFA は Sales Cloud の商談オブジェクトから連携して見積・請求・会計とつながっていきますよ、という世界観なんですよね。これが振替伝票 API や取引 API で連携できるようになると、本当に汎用性が拡がってきます。今までお客様にしていた提案が、ガラッと変わりますよ。 例えば、最近だとサブスクリプション型のビジネスモデルが話題ですが、そういう企業さんって会計処理がものすごく大変なんですよ。月額制も年額制もあるし、同時にワンショットもあったりして、それぞれ計上していかなければならない。そういった、今までの会計システムでは絶対できなかったところが効率化できるようになります。 そして、営業と経理の間の壁は、どんどん無くなっていくと思います。freee によってどれだけ会計が自動化・効率化されたとしても、すべての営業担当が freee を見て財務諸表を把握するのかというと、決してそうではない。でも、外注費だとか広告費だとか、そういう今まで経理部門しか把握していなかった収益数字の部分が、Sales Cloud のダッシュボードを見ていた延長で見れるようになる。営業担当の一人ひとりが経営者に近い視点で会社の数字を見られるように変わってくるんじゃないかと思っています。 2点目は、冒頭にもお話した“ポスト ERP”の世界観をより拡げていきたいですね。freee for SFA のリリースから約1年半、しっかりとした事例も出てきました。伝統的な上場企業さまで使っていただいている事例もあれば、今まさに伸び盛りで上場したばかり企業さまでの事例もあります。 ”ビジネスの成長のために、早い段階からSalesforceとfreeeを2大基幹システムとして使ってきた。だから今、これくらいスケールできているんだよ。”とお客様に語って頂けるような成功事例をもっとつくっていきたいですね。 2018年は“サブスクリプション元年”だと言われましたが、IT のみならず既存のビジネスにおいても、サブスクリプション型のサービスはどんどん増そして、freee for SFA はそうした連携や協業の成功事例になるんじゃないかと思いますね」 パートナーシップによって、いかに顧客への提供価値を最大化するのか、いかにカスタマーサクセスを実現していくのかという部分にこだわっていきたいです。」 会社名 freee株式会社「よう分からんシステム」が「神プロダクト」へ
開発とは「永遠に終わらないアート」だ
freee for SFA にかけた「想い」
freee for SFA によって生み出される新たな顧客価値
最強の自律型チーム
freee for SFA が作り出す新たな世界観
会社概要
URL https://corp.freee.co.jp/
所在地 東京都品川区西五反田2-8-1 五反田ファーストビル 9F
Mission スモールビジネスを世界の主役に